Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (二十一)

助かった、おやすみなさい、と心の中で誓って足を伸ばしたら、突然天に昇った。成層圏に突入。その後、荒川の土手に到着、ザリガニの称号を得る。ああ、架空の経歴だ。夢。
 何かまた熱いと思って起きたら、いつの間にか智子の背中がバジの背中と完全にドッキングしていた。バジはすやすや眠っている。本当に楽しそうに眠る。智子は重い頭を起こしてカーテンの下を見たが、陽の光はまだない。まだ、夜か。一睡して大分体が楽になった。それから、また寝てしまった。
 それはいきなり始まった。どうにかして二人同時に目を覚ましたらしく、智子があれほど毅然と拒否したのに、今度は智子から転がって行って誘いをかけたようだった。あまり覚えていない。
「ねえ、レストランごっこしましょ」
「う?」
「ねえ、レストランごっこしましょう、あぁ」
「うん!」
「ねえ、レストラン、んン!」
「ウン!」
 ささやき声が終わると、暫く静かな口づけが続いた。やがてシーツがゆっくり擦れる音がした。そこから、暫くシーツが擦れ続けて、スピードも増して、ベッドが何度も軋んで、部屋の中はあまりにも暗いのて、部屋中に蒼い三角形や菱形が超音速で飛び回っているように見えたり、見えなかったりした。
 そしていきなり、半地声まじりのささやき合いがスタートした。心臓が、心臓が。
「カレーが!」
「あら、ポテトが!」
「あらポテトかしら、これ?」
「カレーとポテトが!」
「アルー」
「お豆がいたい」
「お豆が食べたい」
「いよん」
「うぉう」
「ドリンクは、いかが、なさいます?」
「わたしはいちごミルク」
「わたしも、いちごミルクで」
「待って」
「ナンとナンが!」
「待って」
「れん草」
「ホウが抜けたわ」
「あり、ナンは?」
「ナンがね、折り紙状態、ただ今」
「ナンが昏睡状態」
「カレーがどんどん染み込む!」
「ナンがもぎ取られていく!」
「湯けむりみずけむり!」
「いいお味よ」
「カレー味!」
「今日のカレーは熱いわ」
「ナンも」
「からっかあらら」
「あつっあつるる」
「辛い!」
「辛くなるよ」
 何とも表現し難いが、これが全部小声なのだ。でも口調は激しいしテンポも半端ではなくなってきた。千枚の羽根、千枚の舌。智子もバジも歓んでいる。

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