Saturday, July 23, 2011

マリーゴールド (十二)

でも、人間として、まず助けなくては。
 咄嗟に訳も分からずその足を力一杯引っ張ると、ドブの蓋の下から、黄色ずくめの胴体と、異様に平べったい顔が現れた。バジは息が詰まりそうになったが、女の白い首元に手を当ててみると高血圧かと思うぐらい激しい脈があったし、お腹も健康そうに上下していた。とりあえず抱き起そうと、腕を背中に回して、胴体を持ち上げた。
 その瞬間智子は目を覚まして「ホトケノカ?」と言って嬉しそうに笑った。バジは思わず、「Excuse me?」と聞き返してしまった。
後は、そう、伝説なのです。
 「まあそんな出会い方だし、妻としてでも何とでも、愛するは愛するに決まってるのよ。バジさんは堅いしね。お仕事は何十回も替わるらしいけど、女はあくまで一本ですよ。知ってた・知らない?
でもね、智子パパ、智子パパは狂人だわ、完全に。何がって、智子のお父さん、自分で『愛せるか』とかどうのこうの質問しておいて、バジさんの答えも待たずに、ベランダの洗濯機をそのまま何と持ち上げたの。普通の力の出し方じゃないわ。持ち上げるのも、『愛妻号!おい、愛妻号!』とか大声で叫びながらよ。どれだけエネルギーがあるのよ、必要なのよ。しかも、洗濯機ってパイプなり何なりで地面と繋がってるじゃない。でもそれが全部外れちゃうぐらいの力で持ち上げたそうなのよ。それで、智子もバジさんも口をアワアワさせてる間に、お父さんは『ウォー』とか言って、洗濯機を持ち上げて、ベランダから下の道に落としてしまったらしいのよ。
洗濯機が二階から降ってくるなんて!超・危険。そして、あり得ない。流石、智子の父親ね。小さな道だし、幸い人にも車にも当たらなかったそうなんだけど、でも道路の表面は陥没したらしいわ。そりゃ、陥没でもするわよ」

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