Saturday, July 23, 2011

マリーゴールド (八)

愛せるかって?ねえ。ハア?そりゃそうよ。当たり前よ!バジさん、智子をドブの中から救い上げたんだから。ドブよ、ドブの話YO!聞いた?」
 むつ美はドブの話なんて知らないから、目が水晶玉のように淡く光り出した。聞かされてない。智子、結構仲良かったと思ったのだけれど。空白と、驚きの交差、青じその香り。
あ、お隣のパスタですね、失礼。
K子が話を再開する。
「ァ聞いてないんだ・聞いてないんだ。ふうんァ。あのね、八王子の方でね、虫の採集してたのよ、智子。そのころ昆虫に熱中してて、喋っても語尾に虫ばっかりつけたりするんだ。『今度行こう虫』、『これ違う虫』、『それおいしい虫わよね』みたいな感じで。信じられる?信じられない。智子らしいケド」
 確かに智子らしいが、そんな時代があったとは知らなかった。
「で、八王子の山奥で虫を捜してたの。『ホトケノカブラムシ』とかいう虫なの、これが。すごい名前でしょ。仏様みたいな黄金色の顔をして、七角形の胴体って言ってた。その虫って、だいたいドブ川とか、溝の蓋の裏にいるらしいの。智子に言わせれば、彼らは謙虚で飾り気がなくて、自分からはあまり出て来ないから、捜しに行く必要があるらしいのよ。
 山道の途中、ドブに入って捜し回ってたのよね、智子。丁度梅雨明けぐらいだったかしら、緑がもう本当に鬱蒼としてくる頃ね。

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