Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (四十三)

それと、智子は『ここたき火』という玩具も持って来て、スイッチを入れるとガラスの小さなたき火にオレンジ色の光が点灯して、段々、周りがじんわりと暖かくなった。おばあちゃまは、
「最近こんなのもあるのね」
 などと言いながら、服もどんどん乾いていって、泥も案外きれいに拭えたので、金具が取れてヒールもかなり大胆に欠けてしまったサンダルのことは潔く忘れようと思った。まだ無惨な姿で玄関の外に脱ぎ捨ててある。
 そして、おばあちゃまは気さくだから、すぐマリーと一緒に入ろうと言ってくれた。普段はバジがお風呂に入れているが、おばあちゃまとマリー、一刻も早くお風呂に入らないといけないから、今日は特別だ。ネズミやらネコやらアヒルやらコアラやら、お風呂にはいろんなプラスチックの動物人形が溢れていて、さぞ楽しいのだ。シャンプーはカメの口から出るし、湯船の栓はコグマのみずきちゃんとイルカの健太くんの交代です。今日はどっちかな?
 お風呂から湯気ボウボウで上がったら、植物の甘い碧い香りが家中に充満していた。嵐が通り抜けた庭をバジが刈り終わって、食卓には風で落とされた庭のプルーンの実が木のボウルに盛られて、少々傷んだ皮が黄紫に光っていた。
「デザートね」
 と智子が言った。
 日もどっぷり暮れて、明るい月が出たころ、夕食の用意ができました。今日の晩ご飯、智子特製の山菜てんぷらと、バジ特製の哲学サラダ。てんぷらのたれは、胡椒と南蛮酢を合わせた粋なソース、サラダのドレッシングは無花果とサイモン・グラス(人参の一種)を合わせたカクテル風ドレッシングで、おばあちゃまは毎回バジ家に来るときはこのような、少し風変わりな食事を楽しみにしているのだ。

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