Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (四十五)

だが、呑み込んですぐ表情が一変、椅子をがたんと言わせて、
「あのね、今日ね、ロケット公園でね、パピィが居たの」
 と言った。おばあちゃまは何か言おうとして口を丸く開けたが、そのまま止まった。智子は少し眉を上げて、
「え?そうなの?パピは今日はずっとお家でお昼寝してたのよ。庭刈りの直前まで」
 と言った。バジは嫌そうに目を細めたが、やがて頷いた。智子はぜんまいの端切れのてんぷらを口に放り入れながら、
「違う人だったんじゃないの」
 なり、
「だって、あり得ないじゃないの」
 なり言っていたが、マリーは諦めなかった。
「だって見たんだもん」
 と言って、お箸を放り出して話し始めた。
「水の中でね、すごい蹴られてたよ、パピ。男の人たちがお顔を押さえ付けてたの。むん。でもマリーがおっきな声で言っても駄目なの。雨がすごいから。でね、マリー、汚れちゃったの。と、マリーそこに行こうとしたの。そうしたら水の中に落っこちちゃった。そうしたらおばあちゃまが助けに来てくれたの。でもそうしたらロケットが落ちてきちゃったの」
 バジが毎晩のように変な文章ばかり読んで聞かせるから、遂に頭がどうかしてしまった。可哀想に。四歳にして狂人。笑えない。
智子は、
「ちょっと待って、だってロケットが落ちてくる訳がないじゃない。ロケット公園よ」
 と尤もらしく言う。ご存知ないかもしれないが、ロケット公園は子供たちに夢と希望を与えるための公園だから空に飛び立つロケットしか置いていないはずなのだ。墜ちてくるロケットなんて。滅相もない。あり得ない。

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