そこへマリーが蝶のようにふらふら入り込んで来て、
「見て見て、マリー、とんぼになっちゃった」
と言って、くるくるとわざと下手に回転してみせた。
バジは見かねて、
「マリーゴールド、ふざけるな。部屋に戻って」
と叱ったら、
「やだやだ。マリー、また仲間外れになるの、やだ!」
と一人泣いて、走ってテーブルの下に潜り込んで、そこで動かなくなってしまった。
智子は急いで荷物の用意をして、黒白の水玉ワンピースを着て化粧も軽く、涙を拭きながらすぐに玄関に立った。
「じゃあ行ってくるわね。夜は戻らないかもしれない」
バジにはそう言って、マリーには、
「マリーちゃん。マミ、行って来ます。また戻るからね」
と言った。するとマリーは案の定、
「マミ行くの?マミ行くの?マリーも行く!マリーも行く!」
と叫びながら、また半泣きになって脚に抱き付いてきた。バジが手を差し伸べてたしなめようとすると、マミはそれを制止して、頭を震わせながら、
「じゃあマリーも行こう!」
と、きっぱりはっきり言った。
バジは、
「そんなの、マリーにはまだ見せない方がよいでしょう」
とか、
「病院行って変な病気でもうつされたらどうする気」
とか言っていたが、智子は今度こそは馬耳東風、
「いや、見せておきたいの。見せられるものは見せておいた方が、良いと思うの」
そして、
「それにお母さんだって、マリーの声で、目が覚めるかもしれないし、万事、何が良いか悪いか分からないのよ」
と付け加えた。バジはただ智子の目を見詰めて、手を握り締めるしかなかった。
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