Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (四十七)

智子はもう呆れて、聞く興味もなくなって、
「えっ?はい?」
 などと皮肉と無関心を両方最大限に配合して言ったのだが、バジはただまた同じことを繰り返すだけだ。おばあちゃまは真摯に、敬虔に目を閉じて、バジの一言を本気で味わっている。智子はもう本当に呆れて、
「あのね、バジさん。ここの主役はマリーです。そんなことほざいたって、まずマリーに理解できる訳ないわよね、マリー。パピに分かりません、理解できません、て言ってあげて。そうじゃないと、ホント駄目だわ」
 と言った。でもマリーは黒い濃い眉毛をバッタの形に折り曲げて、
「マリー分かるもん。理解できるもん」
 と言い返してきた。智子は少しショックであがきながらも、
「ふふ。『理解』の意味も全く分かってないくせに」
 と笑ってみせると、マリーが即、
「『理解』っていうのはね、あのね、他人の気持ちを察すること。思いやりの心を持つこと」
 と回答した。智子は首をかしげて、
「ん?そういう意味だったっけ?」
 と呟いていたが、そうしている内におばあちゃまがてんぷらを全部食べ終わって、
「さあさあ、お茶でも淹れましょうねえ。おばあちゃまのお茶のお時間よ。今日は、マレーシアのお茶です。マリーちゃんも、飲んでみますか?」
 と言って席から立ち上がった。さっぱり、すっきり。マリーも、
「うん!」
 と元気よく答えた。おばあちゃまは、
「何事もチャレンジ、チャレンジ」
 とはきはき小声で口ずさみながら、台所の奥へと消えて行った。すると智子が椅子から身を乗り出して、
「ちょっと、ママ、マリーはまだちっちゃいから、お茶とかコーヒーは飲ませないの」
 と言った。が、おばあちゃまはお湯を火にかけながら、
「良いじゃない、今日ぐらい。雨の中、大変だったんだから。お茶ぐらい、飲まなきゃ」
 と言った。

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