Saturday, July 23, 2011

マリーゴールド (九)

このドブっていうのが、深くはないけど、かなり幅広で、そのまま中に入って捜すんだけど、底には結構きれいな水が流れていて、小魚なんかもちらほらいるし、青い藻もたっぷり生えてるのよ。だから長靴なんかで乗り込むのは悪い気がして、靴を脱いで裸足で入るの。だから、素足でそろそろとドブの中をゆっくりと歩いていた訳よ、滑らないように。
 その虫の仏様みたいなお顔っていうのも、遠くから見る分には灰色のガムの噛み残しみたいにしか見えないらしくて、だから智子も顔をできるだけドブに近づけて歩かないといけなかったの。幸い、流れてるのは奇麗な湧き水か雪解け水で、時折だけど、笹の葉も流れて来たりしてね、良い感じなのよ。
でもね、腰は痛いし、目も少し回るのよね、水は冷たいし!加えてその虫はなかなか、見つからない。これこそ献身、ボディケーション?てもんだわ、いつかは実を結ぶ!」
 K子は得意そうにそう言い捨てて、コーヒーをごっくり飲み乾した。少し一気に飲み込み過ぎて一瞬眉が泳いだが、すぐまた平静を取り戻した。あれ、デディケーションですよね?
でもむつ美は全く惑わされずに、
「とすると、虫は見つかったのね?」
 と、極めて真ッ当な質問をした。本当はどちらでもよかったのだがただ、何か発言しないと、自分の存在意義がその場から消えて無くなりそうだっだから。でもK子は喜んでくれました。
K子は身を乗り出して、いつの間にか来たトーストに手を伸ばしながら言った。マーガリンがたっぷりと塗ってあって、皿に黄色く滴り落ちている。

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