Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (三十七)

流石のおばあちゃまも、もうお手上げで、
「いいの、いいのよ」
 と言いながら、マリーをとにかく全身で包み込んだ。おばあちゃまの春巻き戦法は覿面に効果をあらわして、マリーは身体も心もぽかぽか温まって、またコロコロ笑い始めた。
 それからコンドル頭をまた舐め舐めして、それが甘くて美味しくて、きゃっきゃきゃっきゃ言って、おばあちゃまに抱き付いた。
 コンドル・パフェの最後の残り、とんがったコーンの茶色い先ッポをマリーが呑み込んだころには、時間はまだ遅くはないのに、もう外が暗くなり始めていた。雲が厚く厚く、雨もどんどん強く降る。でも、耳を澄ませて水の音を聞いていると、心が洗われるようだ。早く雨足、弱まってほしいと願いつつも、マリーもおばあちゃまもうっとりとなって、美しい雨の一時を過ごした。
 すると、思いのほか近い距離から、いがみ合いの声が聞こえるではないか。男らの声でカッカカッカ言っている。何だろう、降り頻る雨がうるさ過ぎて、はっきりとは聞き取れない。が、かなり近い。マリーは思わず怖くなって、おばあちゃまに擦り寄ろうとしたら、先におばあちゃまの方から勢いよくぶつかってきた。おばあちゃまはしゃがみ身を低くしてからマリーの腰に手を回して、じっと様子をうかがった。雨は一瞬、雪と思うほど白味がかった。
 雨の中から少しずつ、靴の踵と爪先が複数浮かび上がった。茶色や黒の靴。そしてなんと、そのすぐ先の地面にはバジの黒い顔があった。マリーも見ていて、
「パピ!」
 ときつく、ささやいて、おばあちゃまの手を固く握り締めた。バジは地面に倒されて、蹴られたり、首筋を靴の腹でゆっくりと残忍に撫でられたり、罵声を浴びせられたり、何の言葉かこそ分からないが、決して良くない言葉であるのは容易に想像できた。二人は沈黙したまま、何も言えずにもう暫く傍観した。

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