Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (四十)

「マリー、マリー!」
 どこからともなく声が響き渡り、風雨の中を明るい影が動き回る。でももうバジとバジの一行はどこにも見当たらなかった。マリーもおばあちゃまもずぶ濡れで、いつでも泣く準備、満タンでした。
「智子、バジさん、マリー」
 おばあちゃまが暗がりの中を呼ぶ。ただただ地面がゴボゴボと水を吐き出すばかりで、小鳥の一羽すら鳴きませぬ。
 試しに、
「おーい、お茶、ホケキョ、ホケキョ」
とおばあちゃまが呼ぶ。そして更に実験的に、
「おーい、カレーとナン」
 と呼んでみた。そしたらその途端、頭上で大きな爆発的な稲妻が走って、と思ったら、実はそれは超巨大型双生児ロケットで、家ほどの大きさのロケットが二台連なって、地上へフル・スピードで急降下してきて、その途轍もない大きさの胴体をおばあちゃまの目と鼻の先に見せつけた。と思うと、凄まじいエンジン音を轟かせて、また空高く上昇して行き、雲の中へ消えた。
 馬鹿にするのでない。私は戦時中、アメリカ軍の機関掃銃を生き延びたのだぞ、とおばあちゃまは小さく吐き捨ててやった。が、ありがたいことに、双生児ロケットの巨大なお尻の明るい炎のお陰でマリーの居場所が一目瞭然、すぐ近くにいたではないか。一方、バジたちは一瞬だけだが、かなり遠くに確認できた。何やらバジを担架に高くかついで公園裏の森へと消え入ろうとしてた。智子らしき漆黒の後ろ髪も見えたが、すぐに風雨の中にまぎれて見失った。
 ロケットが行ってしまった後はまた大雨の暗がり、幾らおばあちゃまが、
「待て!この待て!」
 と叫んだところで、誰も現れませんでした。もう暗いし危険だし、丈夫な黒い方の傘を東屋に取りに戻って開いてから、マリーの手を素早く握って、早々出発進行。

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