Saturday, July 23, 2011

マリーゴールド (四)

急に襲いかかった寂しさで、むつ美の目はかすみかけた。いや、まだ結婚していないからとか、そういう問題ではないし、通常の恋愛のようなものに余り興味が湧かない、それも今のところは本当だけれど、今日は関係ない。断言できる。ただ無造作に訪れる、精神の苦痛。旦那さんの名前が思い出せなかったから痛むのではなく、むしろ思い出せなかったことこそが、この無造作な精神の痛みのせいなのだ。
 K子でもむつ美の様子が少しおかしいのを目聡く察知して、急遽方針を変えることにした。会話ではなく一話、講じることにする。成立し得ないものを無理に成立させようとするほど私は幼稚ではない。よし、いきますよ、パスタを食べながら、用意・出発・ゴ―。
「むつ美も聞いたかしら。今でこそ、智子もバジさんもようやく結婚に漕ぎ着けようとしている訳だけれど、一年位前まではもうダメかと思うことが何度も続いたらしいのよ。特に、智子のパパが酷くて、執拗で、別に二人のことに反対してるんではないんだけど、二人に色々とちょっかいを働くの。
 例えば。智子とバジさんは結構早い段階から一緒に住んでいたのよね。日曜の朝なんかは特にゆっくりしたいのに、よく智子のパパが抜き打ちで訪ねて来るの。ドアのチャイム鳴らして、開けないと開くまでずっと鳴らし続けて。布団はめちゃくちゃに踏まれるし、智子はともかく、バジさんの気持ちはどんなだったのかしら」

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