Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (十七)

「マリーちゃん、もう寝なくちゃ」
そうマミが言って、目をつむったまま手をパンパンと叩いた。でもマリーは全く聞こえません、という顔をして、下を向いたままルービックス・キューブに夢中になっている。
「ぴー」
 マミはかなり無理をして、いきなり目を見開き、ベッドから滑るように降りると、大きな鳩になってマリーの周りを飛び回りました。羽をばたばた、首はころころ、足はとことこ。
「寝まひょう、寝まひょう、寝まひょうね!」
 と、できるだけ愛嬌たっぷりに音頭を取りながら。でも次に飛び跳ねた瞬間には、爛々と目を覚ませたマリーが割り込んできて、マミの真似をして鶏の様に飛び回って、きゃっきゃきゃっきゃ追い越そうとしてくる。
智子も負けずに飛び回ったら、笑いの止まらなくなったマリーが遂に床に倒れ込んでしまった。
 それを即、バジが両腕で素早く掬い上げて、
「はい、お鳥さん、寝ますよ」
 と、言って、抱っこしたまま立ち上がった。智子はというと、手だけ羽根のままで、ベッドの巣にちれぢれ疲れて戻って行った。
「お話、読みまっス」
 パピは腕の中に小さなマリーを抱えたまま、くるりと回って部屋から出て行ってしまった。マリーのお喋りの声とルービックス・キューブのカシャカシャという音が廊下に反響した。
 智子は暫く寝ッ転がって足を宙に上げたまま、息を止めてみた。心臓がどくどく、さっきのお遊びのせいで頭痛がする。
 隣のお部屋から、壁越しにバジの低い声が漏れる。マリーはときどき「うぇ?」とか「むん」とか声を出しながら、まだカシャカシャとキューブをやっている。

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