Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (三十九)

おばあちゃまが、信じられないという顔で智子の素顔を見極めようとする。でも横顔や後ろ姿の一部しか見えない。
「マミも?マミも?」
 とマリーが不幸そうに見詰める。マミも、であれば酷過ぎる。何してるのよ、ちょっと。見て、パピ。パピが地面の泥を直接飲み始めた。バジのピンクの口の中がコーヒー色の泥で一杯になっている。コーヒー・クリームと考えれば、泥だってそう不味くはないのだろうが、実際は違う、全然違う、冗談ではない。風雨は益々強まって、東屋の屋根も柱も抜け落ちてしまいそうだ。
 マリーはもう堪らなくなって、
「パピィ!」
 と叫びながら、東屋の半壁を器用によじ登って乗り越えて、東屋の外に飛び出した。だが着地に失敗、転んで、智子撰のワンピースの色合いに、泥色・茶色がかなりの比重で加わった。それでも泥は案外すぐまた雨に流されて、元の色がほぼ戻った。でも、そんなことはどうでもよかった。マリーが再び立ち上がって泥の中を走りだすと、
「マリーちゃん、溺れる!」
 とおばあちゃまは素ッ頓狂に裏声を張り上げて、もうこうなったら仕方がない、唇を噛み締めてから入口に立ち、段を小股に駆け降りて外に出た。傘を差したら、すぐに薄ピンク色の皮は風に破れ、もぎ取られ、無残にも銀色の骨が剥き出しになった。
すごい悪天候。
「パピィ、パピィ!」

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