Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (二十三)

マリーはライオンの横から這い出て、智子とバジのいるベッドの端まで一気に近寄ってきた。そして、
「マリーも、今日はレストランゲームに入れて」
 と、首を傾げながら愛嬌たっぷりにお願いした。智子もバジも、心配で、恥ずかしくて、顔に血が上る、血が上る。
今日は・ですと?今までずっとあんなに小声で、気を付けてレストランごっこをやってきていたのに。
バジは咄嗟に機転を利かせて、明るく、
「マイ・リトル・プリンセス、ふっふ、ようこそいらっしゃいませ。ふっふ、今日は何を召し上がりますか、ふっふ。カリーになさいますか?カリーはカレーこと。あるいは、ふっふ、サラダになさいますか?ふっふ」
 と言い、マリーを抱っこした。
 智子は「何だそれ。気味悪」だの何だの舌打ちしていたが、誤魔化そうとしたのは偉いと思った。
マリーはバジに抱っこされて幸せそうに笑って、
「マリーはね、パンとね、パンの種とね、こじょをちょっととね(こしょうでしょう)、バイキンマンとね、トレーネとね、サグパニとね、あと、こち亀がいいの!」
 などと可愛く喋っていた。
 智子も明日の仕事がなくて精神の余裕があったら、もう少し周到に、もうレストランは閉店時間だからまた明日お越し下さいだの、何か気の利いたことを言えただろうが、もうそれを考えると余計イライラしてしまって、爆発した。
「何よ!何でまだ寝てないの!寝ないと耳が溶けるわよ!お尻もなくなるわよ!何よ、マリーも行くとか。『行く』の意味も分からないくせにねえ!えぇえぇ。トイレに行く時以外は、ちゃんとお部屋に戻って寝て下さい!」

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