Saturday, July 23, 2011

マリーゴールド (五)

むつ美は不思議と少しだけ心が満たされてきた。精神がまた軽くなってきた。それを機敏に察知したK子は、勝ち誇ったように口元で笑ってみせてから、話を続けた。
「それでもね、二人は一緒に暮らし続けたの。でもある日、やっぱり日曜の朝なんだけれど智子パパがやって来たとき、いきなりバジさんに、『お前、智子と結婚する気あるのか。あるのか?あるのか・あるのか・あるのか?』とかいって訊いてきたのよ。あるってそりゃそうでしょ、そりゃ結婚する気ありますよ。二人はもちろんその気でいたわ。でもまだ誰にも特に話してなかったし、現実としてまだ捉えてなかったのね。それでもっていうか、それだからこそ、バジさん、勇気を振り絞って、濃い眉毛でにっこり笑って言ったそうよ。『お父さん、智子さんと結婚させて下さい』って。智子はそこで一から惚れ直しよ」
 むつ美の頬が俄かに紅潮した。
「そしたら、智子パパ、結論から言うと、ものすごい、信じられないぐらい喜んじゃって。実は、興奮し過ぎて物も言えないほどだったのね。でも一応怒ってる振りをしないと男としてカッコつかないと思い込んでたらしくて、まあ、無理やりでも何でも、暴れ出したのよ。両腕振り回して、『本当か?本当か?』とか言って、傍若無人な大声で叫んで、耳が遠いんじゃないか、ぐらいの叫び声でね。もう部屋の中は、衣装ケースも倒れて中身がぐしゃぐしゃ、天井からぶら下がってる電気もコードが千切れるかと思うぐらい根元から揺れて、智子は嬉しいやら恥ずかしいやらだったし、バジさんはバジさんで、一生懸命、『本当です』とか『一生懸命がんばりますので』を連発したわ。ね、それで、智子もバジさんも前から後ろから、何とかお父さんの体を掴もうとするんだけど駄目で、遂にお父さんは窓からベランダに飛び出してしまったらしいの」

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