Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (三十一)

マリーは満面の笑みでまた朝日の円盤の中に入って、「やった、やった!」と肘と膝でダンスをしていた。
バジはお家に一人残されるのが堪らなく淋しかったが、ここは我慢することにした。逆に気持ちがすっきりもした。自由になれる。そしてその自由を独り占めするのだ。すぐにマリーの着替えや玩具やご本を白・黒・赤のマオリ模様の鞄に詰めて、マリーにきれいな、真ッ黒なぴかぴかのバレイ・シューズを履かせた。
 バジは最後に、
「じゃあ、智子さん、ブライダルの小山さん連絡入れとくだから」
 と言った。智子は、
「ありがと」
 と一言放って、顔を引き攣らせた。マリーは智子の手を強く引っ張って、
「マミィ」
 とだけ、呟いた。
 智子は何とか笑顔を作って、マリーにもバジに手を振らせた。バジが遂に玄関の扉をギイと閉めたのは、二人の後ろ姿がコトリ美容院の角に隠れてから、何分も後のことだった。
 ブライダルの小山さんに連絡を入れたら、また異常に優しくしてくれて、事情を話したら暫く休暇をくれると言って、『主我を愛す』を熱唱されてから電話を切った。
 おばあちゃま、おばあちゃま。
幾ら呼んでも、おばあちゃまは戻って来た。えッ、来た?いや、来なかった、でしょう。確かに正しくは戻って『来なかった』だけれども、花びら占いをしたら戻って『来た』だった。

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