Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (二十六)

急いで二人は一緒に起き上がって、立ち上がって、競い合って這うように寝室のドアまで進んで廊下に出て、廊下の電気を燈して、肘でへし合いながらマリーの寝室に駆け込んだ。
マリーちゃんはちゃんと自分のベッドの上で、もうぐっすり、深い寝息を立てて寝ていた。まだ涙の跡が顎の周りに少し付いている。智子は優しく自分のパジャマの袖を丸めて拭いてあげた。それでも起きない。マリーの寝巻きのカバやサイや象たちが、廊下からの静かな光を反射してニコニコ顔のまま散らばっていた。
バジは溜息をついて、智子も溜息をついて、二人は無言のままマリーの上にチベット曼陀羅のタオルケットを首まで掛けてあげて、部屋を出た。ドアが軋んでもマリーは目覚めなかった。いつも明け方はそうであるように、森の怪獣と白い蝶々の夢を見ていたんだろうから。
立ち止まってふと気がつくと、廊下にリビングルームから朝の光が差し込んでいた。鳥の声なんかも聞こえる。オートバイの音もした。
「や」
 智子の舌打ち。
「もう夜が明けてるじゃない。今、今、何時?」
 バジが寝室に戻って時計を見ると、何と朝の五時二十二分だった。バジが智子に伝えると、
「やだ、あと八分で目覚ましが鳴るわ」
 と智子の声も割れた。バジがじっと様子を窺っていると、智子は、
「えいちょっとそこ、突っ立ってないでよ。早く、早くして。時間ないのよ。仕事があるんですからね、勘弁していただけませんか、はいはいハイハイハーイ!」
 などと一人でパニックに陥って、竜巻のように同じ個所で回転しだした。バジは見かねて、無言のままトイレに入ってしまった。

No comments:

Post a Comment