Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (三十六)

おばあちゃまは何とかしてマリーを励まそうと、助けようと、考えを巡らせて、
「でもカレーの匂いってことは、パピに近いってことじゃない。パピィになれるってことじゃない」
 と言った。でも考えが熟す手前で喋り始めてしまったので、賢いマリーに聞き返されて、二度同じことを繰り返した。マリーは少し待って考えてから、
「じゃあマミは?」
 と聞き返してきた。何の質問なのかすぐに分からなくて、おばあちゃまは一瞬思考が止まったが、すぐまた動きだして、
「マミは、ナンだものねえ。でもほら、レストランゲームよ。ナンだってカレーと一緒に食べるじゃないですか。だから、ナンだってカレーの匂いがするのよ。もう皆、パピもマミも、マリーと一緒よ」
 と言った。マリーの喜ぶ顔が見られると思って、晴れ晴れとして胸を張っていたら、マリーが全く正反対、極めて困惑・混乱した顔を見せて、
「マリー、カレーの匂いなんてしないもん!」
 と言い放ってから、泣きだしてしまった。
おばあちゃまは慌ててマリーの甘栗色の髪を力一杯、痛いぐらい撫でて、
「そうよ、その通りよ。カレーの匂いなんてする訳ないのよ。もうそれは言われもない、とんでもない当てこすりです。カレー臭いなんて言った奴は正真正銘の、井の中の蛙ね。地獄へ落ちればいい!」
 と烈しく言い放った。するとマリーはまた更に困惑してしまって、
「だけど、パピもマミもカレーの匂いがして、マリーはしないの?マリーだけ、何でしないの?やだ」
 と問いかけて、四分の一ほどになった小さなコンドルを握り締めながらまた泣いた。そこへ東屋の屋根裏からアマガエルが十匹ほど一気に飛び出して、マリーの顔すれすれを掠めて飛び跳ねて行ったものだから、今度は驚いてマリーは大声でぎゃあぎゃあ泣いて、口が裂けた。アマガエル達は静かに一目散に雨の中へと散って消えてしまった。

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