Sunday, July 24, 2011

マリーゴールド (四十四)

「このサラダはですね」
 バジが説明し始める。
「まず十の松の実の欠片が放射状に並んでいて、その外側を五十の卵の黄身の粒が取り囲んでいます。これはイタリア半島に紀元前存在した多神教の一種、ラムザ派の・・・」
 長い説明が終わった後、智子がいつもの、
「食べたら一緒やん」
 を言うと、それを合図に皆で、
「はい、いただきます」
 と言って、一斉に食べ始めた。
 サラダはやはりドレッシングが圧巻で、おばあちゃまも「大好き」と感嘆していた。また婿ポイント獲得。それから、智子の山菜てんぷらも素晴らしかった。前々日に智子が埼玉に仕事で行ったときに、大量にもらって帰ってきたのだ。
「秩父の森はすごいわよ」
 と智子が楽しそうに言った。たれもピリ辛で美味しかった。
 だがそれも束の間、マリーが悲鳴を上げた。
「どうしたの、どうしたの」
 と皆で騒いでいると、マリーが食べかけのじゃがいものてんぷらをお皿の上に置いて、お箸のサキッチョでつついていた。そう、智子は輪切りにしたポテトもてんぷらにしたのだった。
 マリーのポテトを見ると、衣が取れかかって、マリーの歯型がついたポテトの表面に茶色い線で描かれた、何か絵のようなものが見えた。
「ああそれ」
 と智子が笑った。
「マリー、大当たり!」
 おばあちゃんが覗き込むと、ポテトの表面にはバジの顔が描かれていた。マリーが鼻の部分を噛みちぎってしまっているが。
「いや、ね、遊び心でポテトの内一枚だけに熱したコテでパピの顔を描いてみたのよ。さすが娘だけあるわねえ、マリー。大当たりじゃない、やるじゃない」
 と智子が嬉しそうにして、バジも微笑んだ。マリーも一緒に笑ってパクリと残りのポテトを食べてしまった。

No comments:

Post a Comment