バジはマリーに辛抱強く聞く。
「何て?」
マリーはマリーでまだ下火で泣き続けて、
「だってね、おばあちゃまが、マミはナンで、パピはカレーなのよ、って言ってたの。で、マリーはナンでもカレーでもないの。だから、マリーはいっつも仲間外れなの。でもそれでいいんだって」
と言った。バジは無理に笑って、
「ううん、マリーはマンゴラッシーから、一緒」
と言った。マリーは一瞬笑顔を見せたが、それは実は悲劇のための顔だったらしい。すぐ、
「やだ!マリー、それやだ!」
と、言ってバジの腕の中で暴れ回った。
「やっぱり仲間外れになった!もう分かった」
と鈴虫のような高音で泣きながら。
智子がもう疲れて顔が引き攣ってきて、バジの方に向かって、
「もうレストランごっこのこと、一から説明しましょうよ」
と投げやりに言ったが、バジが吐き捨てるように、
「四歳に分かる訳ない、話しても」
などときつく言ったから、智子もむきになって、
「分かってるわよ、そんなこと。駄目もとで言ってるんでしょうが」
と喰いついてくるから、バジもバジで、
「駄目もととか言って、さっきは分かってなかったくせに!分かってないときは分かってない、はっきり言おうよ」
と睨んでくるから、智子は歯を剥いて、
「分かってるわよ、偉そうに。すぐ人のことそうやって馬鹿にしやがって」
だの何だの言うから、バジもどんどん辛口になってきて、
「違う。さっきの話をしてる。馬鹿しはてなはどっち」
とか言い始めて、それに対して智子も、
「あのね、あなたの日本語よくわかりません。ていうか何だよ、お前さん、馬鹿はてなって。受けるんですけど」
と笑うと、バジは、
「単に口が滑っただけ。ていうか、智子日本語しか喋れないくせに」
それに対して智子は、
「何だと、全然分かってない。歌やってるから、英語・イタリア語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・ラテン語何でも来いよ。ぺーだ。クラシック歌手を馬鹿にすんな。何言ってんの?」
バジはバジで、
「でも喋れないでしょ。発音知ってるぐらいでしょ。しかもクラシック歌手って、智子、ただ結婚式で歌ってるだけじゃんね。マリー、マミそうだよね」
「何よ、卑怯な。あんたこそ博士号まで取って何してんのよ」
「マリーのための教育と研究」
「冗談はよして」
「冗談じゃあないね」
「何をまた。世が世なら」
などとまた言いだすから本当に収拾がつかなくなってしまった。
と、はっと気がついたらマリーが消えていなくなっていた。ライオンの陰にも、ベッドの上にもいない。