機関車のトーマスは山を越え谷間を越え、白い渓流に架かる真ッ赤な橋の上を渡って行った。がたごと、ん・ん・ん、線路の音が鉄骨に響く。トーマスの青いお顔は山の緑に光り輝き、谷間の木陰に安らいで、絶えず絶えず移りゆく情景の中、豪快に・強く・憐れみ深く、微笑み通した。
トンネルを出て、上り坂の緩やかなカーブを曲がり切るか否や、すぐその先に、むつ美の大きな横顔があった。そして、そのまた先にK子のとんがった頬。トーマスは持ち前の笑顔で、むつ美とK子のテーブルの真横を風を切って通り抜けた。汽笛も何度か鳴って、煙とその効果音も、シュルシュルシュル青白く垂直に上がった。
むっちり・むっつり・むっしりむつ美がごぼうのパスタを噛んでいる間、
「旦那がインド人て、どんな感じかしら」
と、色白のK子が言った。
むつ美は答えようとして、やめた。旦那がインド人。どんな感じなのでしょう、分かりません。かわりに、紅茶をすすりました。
K子はK子で、一生懸命ホウレン草を食べる。オーダーしたホウレン草のパスタが、手違いで運ばれてくるのが恐ろしく遅くなって、やっと食べ始めた所だったのだ。お腹が空いている!K子は暫く噛んで、やっと呑み込むと、一度瞬きをしながらもう一度聞いた。
「何だか少し憧れない?」
憧れる?むつ美がまた紅茶をすすりながら考える。考えている間に、機関車のトーマスはもう二周目、むつ美の丸い鼻のぎりぎり手前を通り抜けて、また汽笛をシュッシュシュッシュ鳴らしながら行ってしまった。
「そうねえ」
とむつ美はまずは声を発してみる。憧れるのか、憧れないのかどちらでもないか。声に出して考えれば、答えが見つかるかもしれない。否、全然何も考えが浮かんでこない。ということは、私は馬鹿?つまらなくて、無関心な、面白みの無い人間?もう、さようなら。
右往左往考えている内に、テーブルの向こう側でK子が一人で騒ぎだした。ものすごい勢いで体を右左に揺さ振りながら、激しい瞬きを繰り返している。
「目にごみが入った」
そうK子がか細い声を絞り出すと、むつ美は慌てて、K子に到底聞こえる訳がないのに、
「目薬とティッシュ」
とても面白いです!!!:)
ReplyDeleteどうしてマリーゴールドですか?
kyoran
かたじけないです:)
ReplyDeleteマリーゴールドはもうすぐ登場します。